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 シーサーの護る街     手嶋純

 

湿気が体にまとわりつき、

思わず吐き気がする。

遠くで雷鳴が轟き、

激しい雨の予感をもたらす。

 

僕は那覇空港で、

突然、タクシーを拾った。

約束の時間までは約1時間、

焦る心で目的地を告げた。

 

見知らぬ土地は不安で、

運転手の話に耳をかたむけ、

時間を忘れようとした。

 

運転手はミラーで、

僕の顔をのぞき込み、

突然、沖縄戦の話を始めた。

 

彼にとって戦争がすべてだ。

乗り合わせた乗客には、

必ず、沖縄の悲劇を伝えている。

僕に彼の話を遮る力はなかった。

 

彼は東京から来た観光客に、

そして僕にも執拗に語りかける。

実体験のない者にとって、

悲劇は悲劇でも、

歴史の一片にしかすぎない。

たとえ同情したところで、

今さら何の解決にもならない、

むしろ期待を裏切るばかりだ。

 

視線を外に逸らすと、

民家の屋根に鎮座する

シーサーがいた。

まるで心の奥底を推し量るように。

僕のような戦争に無関心な人間を、

厳しく戒めようとするのか?

 

守護獣のシーサーは、

永遠に外敵を睨みつけ、

戦争の風を読む。

 

強まる風と雨の中を、

タクシーは約束の地を目指す。

友人と待ち合わせている、

戦争を刻む塔も、

シーサーが護っているのだろうか?

 

守護獣のシーサーは、

永遠に外敵を睨みつけ、

戦争の風を読む。

 

(解説)

シーサーとは何か?『沖縄シーサー紀行』のサイト

http://www.wonder-okinawa.jp/011/what.html

沖縄県庁ホームページ  

http://www.pref.okinawa.jp/