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何を信じていこうか     乙黒 一平

 

 

 

黄昏(たそがれ)の 下校途中

風の中 恋の歌を くちずさんだ

あのころ おれは何を信じていたのか

ジョルジュ・サンドに こんな言葉がある

「恋は 純粋な魂が 未知のものに

抱(いだ)く 聖なる 憧(あこが)れである」 

「物のあわれ」を音楽にしたという ショパンと

サンドの魂は ひかれあう運命だったのだろう

 

 

 

黄昏(たそがれ)の 街の国道

風の中 バイクで 走った

あのころ おれは何を信じていたのか

藤原俊成(ふじわらのとしなり)に こんな歌がある

「恋せずば 人の心も なからまし

物のあわれも これよりぞ知る」

人は恋をして 初めて 心も育(そだ)つのだろう

物や世界への情感も 育つのだろう

 

 

 

黄昏(たそがれ)の 大都会

風の中 あてもなく 歩いた

あのころ おれは何を信じていたのか

ゲーテに こんな言葉がある

「自然は 休むことなく活動する生命に

新たな存在形式を 用意する義務がある」

わたしたちの魂は 永生(えいせい)だから

自然も 乙女も 花や樹も 美しいのだろう

 

 

 

黄昏(たそがれ)て 夜もふけて

また日は昇り 人生は続いてゆく

これから おれは何を信じていこうか

キーツに こんな詩(うた)がある

「A thing of beauty is a joy fo rever」

(美しいものは とこしえに歓びである)

「Beauty is truth,truth is beauty」

(美しいものは真実、真実は美しいもの)

わたしたちの魂は 美しいものを 歓びとして

この世界を 楽しむために 存在するだろう

 

 

 

【解説】

 

ポーランド語で、「ジャル」という言葉を、

ひと言で日本語に訳すと、「物のあわれ」という意味に

なるそうです。自然を崇拝するという意味とも言えそうです。

 

ショパンがフランスのパリのサロンで演奏したときに、

ある貴婦人がショパンのところに寄って行って

「あなたがお弾きになるピアノの音には、

人の心を厳粛にさせるものがありますが、それはどこから

来ているのでしょうか」ということを質問したときに、

ショパンは「それはポーランド語のジャルという言葉でしか

表現できません」と答えた。という記録が残っているそうです。

 

(資料・NHKラジオ深夜便・2007年11月の放送)